📜 サマナーズウォー小説 📜
♦ 風の名もなき召喚士 ♦
この小説の主人公モンスター:風フェアリー
突風
烈風の柱で相手を3回攻撃し、60%の確率で1ターンの間スタンさせる。スタンに免疫効果がある相手の場合60%の確率で攻撃ゲージを0にする。
浄化の手招き
味方対象の弱化効果を全て解除し、自分の攻撃力に応じて体力を回復させる。
精霊の怒り
精霊の力を借りて攻撃する。相手対象にかかっている弱化効果1つにつき、与えるダメージが30%ずつ上がる。
第一話 夜明けの誓い
朝焼けの空を切るように、青い鳥が静かに翔けていく。
無名の少女召喚士は、その羽音にまぶたを開き、目覚ましに手を伸ばした。
ここは風が抜ける空島の辺境、誰にも知られぬ小さな村。
今日も彼女は、古びた訓練場で低レアモンスターと朝早くから静かに修行を続けている。
彼女のそばにいた小さな妖精がひらりと宙を舞う。
「おはよう、今日も付き合ってくれる?」
声をかけると、緑がかった羽根に陽光を受け、優しい輝きを放つ。
その姿は、"風のフェアリー"と呼ばれる星2モンスター。
しかし、彼女は知らない。この小さな妖精の中に眠る、ある"正体"のことを。
彼女は風のフェアリーとともに、攻撃のシミュレーションや模擬戦闘を繰り返す。
自分には特別な血筋も、派手なスキルも、レジェンド級のルーンもない。
ただ、いつかアリーナの舞台に立ちたい。その一心だけでここまで来た。
木陰に休んでいたときだった。
遠くの村の放送塔から、魔力のこもった音声が風に乗って届いてきた。
「※今期の天空アリーナ大会・特別リーグ予告:上位入賞者には3,000万クリスタル――※」
「※今回の特別リーグは1対1形式の特別ルールで実施されます※」
一瞬、時間が止まったかのようだった。
心臓が跳ね上がり、胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。
大会。それは頂点を目指す召喚士たちの夢舞台。
今回は"1体のモンスターにすべてを託す"、特別な決闘形式。
これならいけるかもしれない。
無名の自分には遠すぎる場所だと思っていた。だが、その言葉に彼女は立ち尽くしたまま、想像する。
観客の歓声、眩い舞台、モンスターを操作して、勝ち進む自分の姿を――。
しかし、すぐに現実の影がその光を覆い隠す。
(……無理だよ、まだ私なんて。)
村で戦った相手は、せいぜい星4止まりの初級召喚士。
赤ランクの猛者たちは、伝説級のルーン、完成されたアーティファクト、絶妙な状況判断――
自分とは次元の違う存在だ。
けれど――。
それは嵐の前の静けさに過ぎなかった。
彼女の運命は、この朝すでに回り始めていたのだ。
かつて赤ランクの英雄と呼ばれた者が、彼女の村へと足を運びつつあることを、彼女はまだ知らない。
第二話 風が導く者
その日、風はいつになくざわついていた。
彼女がいつもの訓練場に向かう途中、村の入口に見慣れぬ影があった。
手に長い杖を持ち、髪を風になびかせながら歩いてくるその人物は、どこかただ者ではない雰囲気をまとっていた。
「……あんたが、この村で一番手を動かしてる召喚士か?」
不意に声をかけられた。
少女が戸惑いながらも頷くと、女はニッと笑った。
「よし、合格だ。私がマリアだ。二つ名を名乗るほど立派なもんじゃないが……昔は"荒れ狂う嵐の牙"と呼ばれてた。」
その名に、風が一瞬止まる。
彼女こそ、かつて赤ランクを駆け抜けた伝説の召喚士、マリアだった。
マリアは親友の依頼で村に立ち寄ったという。
だが、少女の訓練風景を一目見て、何かを感じ取ったらしい。
「才能のある者ほど、目の奥に"諦めない光"を持ってる。だから教えてみたくなる。」
その日から、彼女の朝は変わった。
ルーンの構成、スキルの相性、速度調整、バフデバフの特性。
マリアの口からこぼれる知識は、まるで洪水のように押し寄せた。
彼女は夢中で吸収し、これまでの独学の限界を痛感しながらも、新たな視点を得ていった。
フェアリーとの連携も、変化し始めていた。
マリアは言う。
「お前のあの妖精……変だな。"何か"を隠してる。」
その言葉に彼女は戸惑いながらも、心のどこかで頷いていた。
たしかに、風のフェアリーは時折、戦闘中に異常な回復やバフを発動することがある。
それは、星2の性能を明らかに超えていた。
だがその謎を追う前に、試練の時はやってきた。
マリアが言った。
「大会前の登録バトル。お前が本当に行くつもりなら、ここで"戦ってこい"。」
指定されたのは、村の近隣で活動する初級召喚士たちが集まる練習場だった。
その日、彼女の相手は風マジカルブラウニーを連れた召喚士。
彼女を見るなり、鼻で笑った。
「星2なんて……冗談でも今どき見ないな。おままごとしにきたのか?」
だが彼女は答えなかった。
彼女の中にあるのは恐れでも自己卑下でもなく、ただ一つ、試してみたいという意志だった。
「対戦相手は……アキーラか。」
マリアが呟いた。
相手の召喚士の隣にいるのは、小柄ながらも鋭い目つきとマントを翻す茶目っ気たっぷりのモンスターだった。
その足元には奇妙なボール。ニヤリと笑い、地面を蹴って風のように突進してくる。
≪走れ走れ!≫
叫びと共にブラウニーが急加速する。小さな体が地を滑るように動き、風フェアリーに突き刺さるような一撃を与えた。
さらに運悪く、 追加ターン獲得。
続けての打撃が入る。
「……速い!」
彼女は焦りを抑えながらも、戦況を読む。
風フェアリーが後退しつつ身構えると、次の瞬間――
≪フィーバータイム≫!
ブラウニーが空高く手を掲げると、緑のオーラが輝き、攻撃力とクリティカル率のバフが発動した。
続く20%のチャンス――ターン獲得。
動きは止まらない。
≪思わぬ暴露!≫
ブラウニーが跳躍して魔法の爆風を放つ。
風の妖精にかかっていた免疫が剥がれ落ち、たちまち隙ができた。
彼女は、荒い呼吸を整えながら命じる。
「……ここからが本番よ。≪突風≫!」
風フェアリーの翼が広がる。緑の光がほとばしり、烈風の柱が三度ブラウニーを打つ。
一撃ごとに風の刃が走り、その三発目、稲妻のような音が鳴った。
「……スタン入った!」
相手が少しの間動きを止める。チャンスだ。
だが彼女は続けて指示を出すことはしなかった。
≪浄化の手招き≫
一陣の風が走り、フェアリーの傷が瞬時に消える。
少女はすぐさま目で合図した――反撃の準備は整った。
――そして、次のターン。
風マジカルブラウニーが再び突っ込んでくる。だが、スタンが解けたばかりの動きは鈍い。
彼女は叫んだ。
「≪突風≫でもう一度!」
三撃が再びブラウニーを包み込み、今度はデバフが2種重なった瞬間――
フェアリーの瞳が赤く光る。
≪精霊の怒り≫。
弱化効果の数に応じて、ダメージアップされたその最後の一撃が、ブラウニーを地に叩きつけた。
アキーラが静かに消え、勝者が決まる。
少女は手を握りしめ、深く息を吐いた。
マリアが口元を緩めて言う。
「いい連携だった。"風"を読む力が段違いだったよ。……まるで、風そのものを操る女王みたいだった。」
少女が息を切らしながら空を見上げた時、どこからか聞こえる観客の拍手があった。
マリアが笑って言った。
「いい目をしてた。ようやく、召喚士になったね。」
少女は微かに笑った。けれどその胸の奥に浮かんだのは、誇らしさだけじゃなかった。
まだ足りない。まだ届かない――そんな思いが、風のように心の奥を吹き抜けていた。
"もっと誇らしい存在になりたい"――その願いは、まだどこか遠くにある気がした。
バトルの後、彼女はマリアと共にアリーナ登録所へ向かった。
途中で出会ったのは、同じくエントリーに来ていた二人の召喚士だった。
一人は、炎のように元気な剣士、エレナ。
もう一人は、水のように静かな癒し手、ミズキ。
「やるじゃん。星2でここまでやるなんて、見直したよ!」
「うん。これから大会が楽しみだね。」
その言葉に、少女は少し照れながらも頷いた。
アリーナの道は一人ではない――。
仲間という存在が、ほんのりと彼女の背中を押してくれていた。
そして風のフェアリーは、少女の隣に静かに舞い降りる。
その羽音は、どこか嬉しそうだった。
第三話 嵐の果てに
天空アリーナ本戦、準決勝。
眩い照明と、観客席から降り注ぐ歓声の嵐。
名だたる召喚士たちを退け、ついに彼女はこの舞台へたどり着いた。
だが、その空気はどこか異様だった。
目の前に現れたのは、闇を裂いて現れた巨大な影――闇ドラゴンナイト・ラグドール。
「ようこそ、無名の風使いさん。ここが、お前の挑戦の限界だ。」
冷たい声が戦場に響く。ラグドールの鎧に刻まれた紋様が淡く輝き、闇の魔力が満ちていく。
彼女は静かに目を閉じ、風フェアリーを召喚した。
緑の光が渦を巻き、フェアリーがふわりと舞い降りる。だが、ラグドールの眼光はそれを見て微かに笑った。
「星2だと…?……諦めるならさっさと降参しろよ」
「※ これより、準決勝第二試合を開始する。※」
「※ 本大会特別リーグは――1対1による代表モンスター同士の名誉の決闘!※」
「ふん、面白い。こっちも、お遊びは終わりにしようか。」
ラグドールが会場まで足を進めると、空が濁った。
暗い稲妻が地を裂き、漆黒の鎧に身を包んだ龍人――闇ドラゴンナイト・ラグドール が戦場に立つ。
その眼光は、すでに獲物を見定めていた。
一方、彼女が送り出したのは――風フェアリー。
小さな身体と透けるような羽を持つ、星2の妖精。
「まさか、本当にそれを出すとはな。」
「ただチラ見せするだけの単なる挑発かと思ったぜ。」
ラグドールが失笑する。
「拍子抜けだ。せめて、相応の相手を寄越せばいいものを。」
だが、彼女は静かに呟いた。
「信じてる。あの子は、誰よりも風を知ってる。」
バトルが始まる。
ラグドールが音もなく接近し、巨大な槍を振りかぶる。
≪ドラゴンのパワー≫
一閃。
風フェアリーの羽が裂ける。鋭い斬撃が身体を裂き、空中でバランスを崩す。
「……くっ!」
風フェアリーは反撃に出る。
≪突風≫!
烈風の柱がラグドールに襲いかかる。だが、彼の鎧は重く厚い。被ダメージを軽減するパッシブにより、そのダメージはわずかだった。
ラグドールはにやりと笑う。
「貧弱な風だ……その程度で、この闇を裂けると思うな。」
再び黒い槍が閃く。
フェアリーの小さな身体は地面に叩きつけられ、痛々しく跳ね返る。
「まだだ……!」
フェアリーは必死に羽ばたく。
その目には、あきらめの色はなかった。
彼女は呪文を詠唱する。
「≪浄化の手招き≫!」
緑の風が身体を包み、傷が癒える。弱化効果も浄化され、再び空へと舞い上がる。
「もう一度、"突風"!」
烈風が再びラグドールに叩き込まれる。
だが、その傷は浅い。
彼のHPゲージは、わずかに減っただけだった。
そして、運命の一撃が来る。
その身体から暗黒の力が噴き出す。
≪激流≫
その一撃は、まるで竜巻のように全てを薙ぎ払う。
風フェアリーの魔力が削がれ、空中で意識が遠のく。
(もう……だめかもしれない)
このまま負けたら、全部終わる。夢も、誓いも。
"名もなき召喚士"のままで、誰にも覚えられず消えていくのか。
――それでも、ここまで来たのはなぜ?
あの日、ただ認められたくて。誰かに「君がいた」と言ってもらいたくて。
本当はずっと、誰よりも挑んでみたかった。
でも、怖かった。もし全力で戦って、それでも届かなかったら――
そんな自分を、どうしても認めたくなかった。
だがそのとき――彼女の奥底で、何かが解き放たれた。
「……お願い、風よ……!」
少女の声が、風に乗って響く。
次の瞬間、風フェアリーの身体が輝き始めた。
翠色の魔力が全身を包み、空に紋章が浮かび上がる。
「……!」
ラグドールが目を見開く。
目の前にいた小さな妖精の姿が変わっていく。
六枚の透き通る羽根、花弁のようなドレス、気品と威厳をまとったその姿――
「風フェアリークイーン……!」
彼女が静かに手を掲げた。
≪御光≫
一本の光の柱がフィールドに立つ。
翠嵐の刃がラグドールを切り裂き、その重い鎧をも穿つ。
風に乗せられた強化が、彼女自身を支える。
そして――最後の突風。
「これが、≪戦場の妖精≫!」
烈風の柱が、ラグドールを貫いた。
闇の竜が静かに崩れ落ちる。
そして、風が静まった。
天空アリーナが沈黙に包まれる。
やがて――割れんばかりの歓声が響き渡った。
1体の妖精が、闇の龍王を打ち倒した。
それは、伝説の始まりだった。
「勝者――風の召喚士、ミコト!」
名前が呼ばれた瞬間、彼女の中で何かがほどけた。
その後、ランクの昇格が告げられると、彼女はひとり、静かに空を見上げた。
「風は……まだ止まるか分からない。」
村へ戻ったその日、子どもたちが彼女を囲んだ。
「お姉ちゃん、赤ランクになったんだって!すごい!」
「私もいつか召喚士になる!」
彼女は微笑みながら、フェアリークイーンと目を合わせる。
そこにはもう、少女の面影はなかった。
「夢って、思ったより風みたいなものかもね。見えないけど、確かにある。」
そう呟いたその背には、風が静かに吹いていた。
烈風の柱で相手を3回攻撃し、60%の確率で1ターンの間スタンさせる。スタンに免疫効果がある相手の場合60%の確率で攻撃ゲージを0にする。
味方対象の弱化効果を全て解除し、自分の攻撃力に応じて体力を回復させる。
精霊の力を借りて攻撃する。相手対象にかかっている弱化効果1つにつき、与えるダメージが30%ずつ上がる。
第一話 夜明けの誓い
朝焼けの空を切るように、青い鳥が静かに翔けていく。
無名の少女召喚士は、その羽音にまぶたを開き、目覚ましに手を伸ばした。
ここは風が抜ける空島の辺境、誰にも知られぬ小さな村。
今日も彼女は、古びた訓練場で低レアモンスターと朝早くから静かに修行を続けている。
彼女のそばにいた小さな妖精がひらりと宙を舞う。
「おはよう、今日も付き合ってくれる?」
声をかけると、緑がかった羽根に陽光を受け、優しい輝きを放つ。
その姿は、"風のフェアリー"と呼ばれる星2モンスター。
しかし、彼女は知らない。この小さな妖精の中に眠る、ある"正体"のことを。
彼女は風のフェアリーとともに、攻撃のシミュレーションや模擬戦闘を繰り返す。
自分には特別な血筋も、派手なスキルも、レジェンド級のルーンもない。
ただ、いつかアリーナの舞台に立ちたい。その一心だけでここまで来た。
木陰に休んでいたときだった。
遠くの村の放送塔から、魔力のこもった音声が風に乗って届いてきた。
「※今期の天空アリーナ大会・特別リーグ予告:上位入賞者には3,000万クリスタル――※」
「※今回の特別リーグは1対1形式の特別ルールで実施されます※」
一瞬、時間が止まったかのようだった。
心臓が跳ね上がり、胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。
大会。それは頂点を目指す召喚士たちの夢舞台。
今回は"1体のモンスターにすべてを託す"、特別な決闘形式。
これならいけるかもしれない。
無名の自分には遠すぎる場所だと思っていた。だが、その言葉に彼女は立ち尽くしたまま、想像する。
観客の歓声、眩い舞台、モンスターを操作して、勝ち進む自分の姿を――。
しかし、すぐに現実の影がその光を覆い隠す。
(……無理だよ、まだ私なんて。)
村で戦った相手は、せいぜい星4止まりの初級召喚士。
赤ランクの猛者たちは、伝説級のルーン、完成されたアーティファクト、絶妙な状況判断――
自分とは次元の違う存在だ。
けれど――。
それは嵐の前の静けさに過ぎなかった。
彼女の運命は、この朝すでに回り始めていたのだ。
かつて赤ランクの英雄と呼ばれた者が、彼女の村へと足を運びつつあることを、彼女はまだ知らない。
第二話 風が導く者
その日、風はいつになくざわついていた。
彼女がいつもの訓練場に向かう途中、村の入口に見慣れぬ影があった。
手に長い杖を持ち、髪を風になびかせながら歩いてくるその人物は、どこかただ者ではない雰囲気をまとっていた。
「……あんたが、この村で一番手を動かしてる召喚士か?」
不意に声をかけられた。
少女が戸惑いながらも頷くと、女はニッと笑った。
「よし、合格だ。私がマリアだ。二つ名を名乗るほど立派なもんじゃないが……昔は"荒れ狂う嵐の牙"と呼ばれてた。」
その名に、風が一瞬止まる。
彼女こそ、かつて赤ランクを駆け抜けた伝説の召喚士、マリアだった。
マリアは親友の依頼で村に立ち寄ったという。
だが、少女の訓練風景を一目見て、何かを感じ取ったらしい。
「才能のある者ほど、目の奥に"諦めない光"を持ってる。だから教えてみたくなる。」
その日から、彼女の朝は変わった。
ルーンの構成、スキルの相性、速度調整、バフデバフの特性。
マリアの口からこぼれる知識は、まるで洪水のように押し寄せた。
彼女は夢中で吸収し、これまでの独学の限界を痛感しながらも、新たな視点を得ていった。
フェアリーとの連携も、変化し始めていた。
マリアは言う。
「お前のあの妖精……変だな。"何か"を隠してる。」
その言葉に彼女は戸惑いながらも、心のどこかで頷いていた。
たしかに、風のフェアリーは時折、戦闘中に異常な回復やバフを発動することがある。
それは、星2の性能を明らかに超えていた。
だがその謎を追う前に、試練の時はやってきた。
マリアが言った。
「大会前の登録バトル。お前が本当に行くつもりなら、ここで"戦ってこい"。」
指定されたのは、村の近隣で活動する初級召喚士たちが集まる練習場だった。
その日、彼女の相手は風マジカルブラウニーを連れた召喚士。
彼女を見るなり、鼻で笑った。
「星2なんて……冗談でも今どき見ないな。おままごとしにきたのか?」
だが彼女は答えなかった。
彼女の中にあるのは恐れでも自己卑下でもなく、ただ一つ、試してみたいという意志だった。
「対戦相手は……アキーラか。」
マリアが呟いた。
相手の召喚士の隣にいるのは、小柄ながらも鋭い目つきとマントを翻す茶目っ気たっぷりのモンスターだった。
その足元には奇妙なボール。ニヤリと笑い、地面を蹴って風のように突進してくる。
≪走れ走れ!≫
叫びと共にブラウニーが急加速する。小さな体が地を滑るように動き、風フェアリーに突き刺さるような一撃を与えた。
さらに運悪く、 追加ターン獲得。
続けての打撃が入る。
「……速い!」
彼女は焦りを抑えながらも、戦況を読む。
風フェアリーが後退しつつ身構えると、次の瞬間――
≪フィーバータイム≫!
ブラウニーが空高く手を掲げると、緑のオーラが輝き、攻撃力とクリティカル率のバフが発動した。
続く20%のチャンス――ターン獲得。
動きは止まらない。
≪思わぬ暴露!≫
ブラウニーが跳躍して魔法の爆風を放つ。
風の妖精にかかっていた免疫が剥がれ落ち、たちまち隙ができた。
彼女は、荒い呼吸を整えながら命じる。
「……ここからが本番よ。≪突風≫!」
風フェアリーの翼が広がる。緑の光がほとばしり、烈風の柱が三度ブラウニーを打つ。
一撃ごとに風の刃が走り、その三発目、稲妻のような音が鳴った。
「……スタン入った!」
相手が少しの間動きを止める。チャンスだ。
だが彼女は続けて指示を出すことはしなかった。
≪浄化の手招き≫
一陣の風が走り、フェアリーの傷が瞬時に消える。
少女はすぐさま目で合図した――反撃の準備は整った。
――そして、次のターン。
風マジカルブラウニーが再び突っ込んでくる。だが、スタンが解けたばかりの動きは鈍い。
彼女は叫んだ。
「≪突風≫でもう一度!」
三撃が再びブラウニーを包み込み、今度はデバフが2種重なった瞬間――
フェアリーの瞳が赤く光る。
≪精霊の怒り≫。
弱化効果の数に応じて、ダメージアップされたその最後の一撃が、ブラウニーを地に叩きつけた。
アキーラが静かに消え、勝者が決まる。
少女は手を握りしめ、深く息を吐いた。
マリアが口元を緩めて言う。
「いい連携だった。"風"を読む力が段違いだったよ。……まるで、風そのものを操る女王みたいだった。」
少女が息を切らしながら空を見上げた時、どこからか聞こえる観客の拍手があった。
マリアが笑って言った。
「いい目をしてた。ようやく、召喚士になったね。」
少女は微かに笑った。けれどその胸の奥に浮かんだのは、誇らしさだけじゃなかった。
まだ足りない。まだ届かない――そんな思いが、風のように心の奥を吹き抜けていた。
"もっと誇らしい存在になりたい"――その願いは、まだどこか遠くにある気がした。
バトルの後、彼女はマリアと共にアリーナ登録所へ向かった。
途中で出会ったのは、同じくエントリーに来ていた二人の召喚士だった。
一人は、炎のように元気な剣士、エレナ。
もう一人は、水のように静かな癒し手、ミズキ。
「やるじゃん。星2でここまでやるなんて、見直したよ!」
「うん。これから大会が楽しみだね。」
その言葉に、少女は少し照れながらも頷いた。
アリーナの道は一人ではない――。
仲間という存在が、ほんのりと彼女の背中を押してくれていた。
そして風のフェアリーは、少女の隣に静かに舞い降りる。
その羽音は、どこか嬉しそうだった。
第三話 嵐の果てに
天空アリーナ本戦、準決勝。
眩い照明と、観客席から降り注ぐ歓声の嵐。
名だたる召喚士たちを退け、ついに彼女はこの舞台へたどり着いた。
だが、その空気はどこか異様だった。
目の前に現れたのは、闇を裂いて現れた巨大な影――闇ドラゴンナイト・ラグドール。
「ようこそ、無名の風使いさん。ここが、お前の挑戦の限界だ。」
冷たい声が戦場に響く。ラグドールの鎧に刻まれた紋様が淡く輝き、闇の魔力が満ちていく。
彼女は静かに目を閉じ、風フェアリーを召喚した。
緑の光が渦を巻き、フェアリーがふわりと舞い降りる。だが、ラグドールの眼光はそれを見て微かに笑った。
「星2だと…?……諦めるならさっさと降参しろよ」
「※ これより、準決勝第二試合を開始する。※」
「※ 本大会特別リーグは――1対1による代表モンスター同士の名誉の決闘!※」
「ふん、面白い。こっちも、お遊びは終わりにしようか。」
ラグドールが会場まで足を進めると、空が濁った。
暗い稲妻が地を裂き、漆黒の鎧に身を包んだ龍人――闇ドラゴンナイト・ラグドール が戦場に立つ。
その眼光は、すでに獲物を見定めていた。
一方、彼女が送り出したのは――風フェアリー。
小さな身体と透けるような羽を持つ、星2の妖精。
「まさか、本当にそれを出すとはな。」
「ただチラ見せするだけの単なる挑発かと思ったぜ。」
ラグドールが失笑する。
「拍子抜けだ。せめて、相応の相手を寄越せばいいものを。」
だが、彼女は静かに呟いた。
「信じてる。あの子は、誰よりも風を知ってる。」
バトルが始まる。
ラグドールが音もなく接近し、巨大な槍を振りかぶる。
≪ドラゴンのパワー≫
一閃。
風フェアリーの羽が裂ける。鋭い斬撃が身体を裂き、空中でバランスを崩す。
「……くっ!」
風フェアリーは反撃に出る。
≪突風≫!
烈風の柱がラグドールに襲いかかる。だが、彼の鎧は重く厚い。被ダメージを軽減するパッシブにより、そのダメージはわずかだった。
ラグドールはにやりと笑う。
「貧弱な風だ……その程度で、この闇を裂けると思うな。」
再び黒い槍が閃く。
フェアリーの小さな身体は地面に叩きつけられ、痛々しく跳ね返る。
「まだだ……!」
フェアリーは必死に羽ばたく。
その目には、あきらめの色はなかった。
彼女は呪文を詠唱する。
「≪浄化の手招き≫!」
緑の風が身体を包み、傷が癒える。弱化効果も浄化され、再び空へと舞い上がる。
「もう一度、"突風"!」
烈風が再びラグドールに叩き込まれる。
だが、その傷は浅い。
彼のHPゲージは、わずかに減っただけだった。
そして、運命の一撃が来る。
その身体から暗黒の力が噴き出す。
≪激流≫
その一撃は、まるで竜巻のように全てを薙ぎ払う。
風フェアリーの魔力が削がれ、空中で意識が遠のく。
(もう……だめかもしれない)
このまま負けたら、全部終わる。夢も、誓いも。
"名もなき召喚士"のままで、誰にも覚えられず消えていくのか。
――それでも、ここまで来たのはなぜ?
あの日、ただ認められたくて。誰かに「君がいた」と言ってもらいたくて。
本当はずっと、誰よりも挑んでみたかった。
でも、怖かった。もし全力で戦って、それでも届かなかったら――
そんな自分を、どうしても認めたくなかった。
だがそのとき――彼女の奥底で、何かが解き放たれた。
「……お願い、風よ……!」
少女の声が、風に乗って響く。
次の瞬間、風フェアリーの身体が輝き始めた。
翠色の魔力が全身を包み、空に紋章が浮かび上がる。
「……!」
ラグドールが目を見開く。
目の前にいた小さな妖精の姿が変わっていく。
六枚の透き通る羽根、花弁のようなドレス、気品と威厳をまとったその姿――
「風フェアリークイーン……!」
彼女が静かに手を掲げた。
≪御光≫
一本の光の柱がフィールドに立つ。
翠嵐の刃がラグドールを切り裂き、その重い鎧をも穿つ。
風に乗せられた強化が、彼女自身を支える。
そして――最後の突風。
「これが、≪戦場の妖精≫!」
烈風の柱が、ラグドールを貫いた。
闇の竜が静かに崩れ落ちる。
そして、風が静まった。
天空アリーナが沈黙に包まれる。
やがて――割れんばかりの歓声が響き渡った。
1体の妖精が、闇の龍王を打ち倒した。
それは、伝説の始まりだった。
「勝者――風の召喚士、ミコト!」
名前が呼ばれた瞬間、彼女の中で何かがほどけた。
その後、ランクの昇格が告げられると、彼女はひとり、静かに空を見上げた。
「風は……まだ止まるか分からない。」
村へ戻ったその日、子どもたちが彼女を囲んだ。
「お姉ちゃん、赤ランクになったんだって!すごい!」
「私もいつか召喚士になる!」
彼女は微笑みながら、フェアリークイーンと目を合わせる。
そこにはもう、少女の面影はなかった。
「夢って、思ったより風みたいなものかもね。見えないけど、確かにある。」
そう呟いたその背には、風が静かに吹いていた。
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